【異邦人の庭】「本当に」死を考えたことがあるか|OrgofA(オルオブエー)WEB配信演劇 コラム

死を目の前にした人間


日が変わる。

ここでは、冒頭から死に怯える隣の死刑囚が泣き叫んでいる場面から始まる。
執行日選択権のある、5年という期間が残り少ないからである。

契約通り婚姻届を出し、名目上夫婦となった二人。


あくまで契約結婚としてとらえ、死刑執行日を選択するためであると冷静な春と、結婚したという事実に喜びを隠さない詞葉。


終始落ち着いている春に対し、満面の笑みで結婚の事実を噛み締める詞葉という温度差が妙に可笑しい。

「死ぬのが怖い人もいる」という詞葉に、「死にたい」と言っていたのに?と、突き放す春。


「怖がっているうちは本気ではない」と、冷たい言葉を肯定し、「死にたいと思ったことはない」と言う春に、「でしょうね」と詰め寄る詞葉。ここでも、お互いの考えは交わらない。その後もぎこちない会話が続く。

ユーモアなどを交えながら笑顔で話をしながらも、死刑を免れるための「再審請求」をしないのかという春からの言葉には激昂。

支援者の会はあくまで司法を正したいという私欲のために再審請求をするよう伝えており、詞葉、被害者、遺族を何も考えていないと叫び、「人には生きる権利と同時に、死ぬ権利もある」と話す。

春はこれに「大切な人には死んでほしくない」と答えているが明らかに動揺を見せ、その後の会話はかなりちぐはぐな会話で場面が変わる。

ここでは春の人間性が垣間見える。
おそらく真面目で立派な人間なのだろう。

真っ当な発言をしているし、「死にたいのに死ぬのが怖い」という矛盾を言葉通り捉え、そこから生まれる疑問を真っすぐに投げかけている。

再審請求についても、死刑を免れる可能性があるのであればするべきだという、第三者から見れば当然の発言をしている。常に冷静で、物事を真っすぐ受け止めることができる人物なのだと筆者は感じた。

春の妻の話題になった時には春も大きく動揺している。

この時点では「大切な人には死んでほしくない」という発言は、仮にも契約結婚をし、妻となった詞葉に向けられていると感じた。しかし、これも後の伏線になっていた。

物語はより残酷に進む。

死刑の意味とは

日が変わる。

穏やかな会話から始まるが、詞葉の表情は暗い。隣人が死刑を執行した。

昨日が執行日選択権がなくなる最終日だったのだ。

「自殺なのか」「自殺を強要された」「殺人なのか」「大丈夫じゃなかったら何かしてくれるんですか」

純粋な感情を言葉にぶつける詞葉。
それに、かける言葉のない春。

その後、詞葉が殺人鬼になる前の日常の話になるが、突然泣き崩れる。

「どうしてこんなことに」「どうしたらこんな事につながってしまうのか」とうなだれ続ける。

そして、春の演劇を思い出すため、春の過去の舞台写真を見たとき、裁判所で幾度となく見てきた見覚えのある人物が。


7人を殺した詞葉の被害者の中に、春の妻がいたのだ。

「殺したいですか?私のことを」
「いいですよ、サインしてください。そしたら私を殺せます」

唇を震わせながらやさしく微笑む詞葉。

「体でもない。心でもない。私の命が罪を犯した。それを奪うのが死刑です」と、淡々と答え暗転する。

この時、春も涙ぐみながら、「あなたの体は妻を殺した、しかし、心はそれを忘れている。この気持ちをどこにぶつければよいのでしょうか」と訴えると同時に、なぜ詞葉はこの事態を受け入れることができるのかという疑問がわく。

この物語はどういう結末を迎えるのか。
それは、次の日で明らかになる。

終焉

日が変わる。

暖かくなり、本当に「春」が来た。
執行同意書と離婚届が春の元に届けられていた。

そして新聞の話題になる。その新聞の内容は「一年ほど前に、記憶が一部戻った」というものであった。

淡々と、一部戻った記憶の殺人の様子を話す。
その話を聞く時の春の顔は、目線も泳ぎ、苦痛に歪む。

しかし、春の妻ではないことが判明すると、ほっとしたと同時に「最低だなぁ」と狼狽する。

詞葉が記憶が戻ったから死刑を受け入れることを決めたことも判明。最後まで残っていた謎が、ここでつながった。

全ての辻褄があった現実を目の当たりにして、春はバツが悪そうな顔でサインした執行同意書を差し出す。

「ありがとうございます。死を持って償います」と詞葉が深々と頭を下げるが、春はサインをした離婚届も同時に差し出した。

「自分で選んでください。人間には、生きる権利も死ぬ権利もあります」と、春は告げた。

春は自分で手を下すことをしなかった。

ここで詞葉は、この舞台の中で一番の笑顔を見せた。

そして、死んだらどうなると思うかと尋ね、なんの隔たりもない「異邦人の庭」の存在を伝え、「そこで私と会ってくれますか」と告白する。

春は「はい」と戸惑いながらもそれを受け入れ、最初から最後まで触れ合うことのない二人で、アクリル板ごしに手を合わせようと提案する。

それを断られると食い下がるように、「脚本を書き始めた」と伝え、「書きあがったら読んでください」と必死に訴える。

そして最後に「また、ここで」と詞葉が涙の別れを告げた。

2人は舞台から去った。

その後の二人が再開できたのか。
脚本は書きあがったのか。
詞葉は死刑を執行したのか。

それは、誰も知る由もない。

ここで、物語は幕を閉じる。
筆者はこの場面で、”二人の間に芽生えた感情”を感じることができた。

日本語的にも文法的にも、明らかに間違っている言葉なのは重々承知だが、この感情を言葉にするのであれば、この表現がしっくりとくる。

この感情は愛なのか、情けなのか。


少なくとも詞葉が救われたことは間違いないだろう。

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