【異邦人の庭】「本当に」死を考えたことがあるか|OrgofA(オルオブエー)WEB配信演劇 コラム

「死にたい」

SNSが普及した現代において、誰もが一度は考えたり、口にしたことがあるのではないだろうか。


当然、筆者も口にしたことがあるし、過去にそれを行動に移したこともある。

もはや「死にたい」という言葉に現代日本の人間は慣れてしまい、特に珍しい言葉ではなくなってしまった。

だが、そのありふれた「死にたい」という言葉が、この『異邦人の庭』の前ではあまりにも軽く、薄い言葉であると突きつけられるような話であった。

細かく震える唇の動き、涙が流れる様子、中々かみ合わない会話、不安定な精神状態の中で会話をする二人。

支援者と死刑囚の獄中結婚を皮切りに、思惑は交錯する。

そんな『異邦人の庭』についてここに記す。

ストーリーをなぞり、筆者の感じた簡単に印象を述べつつ総評をつなげる構成のため、物語の内容は簡潔かつ、駆け足になってしまう。

しかし、この文章で「異邦人の庭」を詳しく知りたいと思うのであれば、ぜひ本編の映像配信、もしくは再演の際、演劇を見てほしい。少なくとも、チケット代である2000円の価値は感じられるはずだ。

※作品冒頭の項では、無料公開されている冒頭映像の部分のコラムです。それより後の項は、本編内容に関するコラムのため、ネタバレとなります。ご注意ください。

作品冒頭

この作品は、冒頭から「不安定」「不穏」という言葉がよく似合う。

冒頭、会話を明るく話す火口詞葉(ひぐちことは)、それに戸惑いながらも応える一春(にのまえはる)。

常に女の顔には疲れが見える。何気ない、いまいち要領を得ないぎこちない会話。

共通の話題を見つけ、少しずつ口数が増えている詞葉。そして唐突に、突然に、核心を突く。

過去に実際の事件を題材にした演劇を作ったことがある春に「新たな作品作りのための取材目的で支援者の会に入ったのだろう」と。

春も図星を突かれ、言葉を失う。

「どんな人なのか知りたくて」と、春が墓穴を掘ると「7人も殺した死刑囚はどんな女だろうって?」とさらに追い打ちをかける。かなり緊迫した状況。

その後、目まぐるしく話が展開。詞葉が置かれた現状が一気に浮き彫りになる。
「事件の記憶はない」「証拠を見る限り、犯人は自分しかありえない」

矢継ぎ早に話を続けた後、逃げるかのように話を切り上げようとする詞葉に、春は必死に取材をさせてほしいという旨を伝えると、春が過去に作った舞台でクレームがあったことを突き付ける。

しかし、それを責めるわけでもなく「想像通りの人だった」と、春を笑顔で見つめる。
最後に「結婚してください」と春に告白をした。

細かいとっさの表情1つ1つ、急に怒声をあげる女の不安定さ、力の抜けたかのようなか細い声、急に訪れる一瞬の静寂。

不穏で冷たく、重いどんよりとした空気の中、男女のかみ合わない会話が繰り広げられる。

私を殺してください

突然のことにあっけにとられるが、詞葉は途端に流暢に死刑の制度と、執行日選択権の説明をする。執行日選択権は父母と配偶者にのみ与えられるというのもことを告げられた。

そして、「私を殺してください」と、ゆっくりと春に伝える。

ここで詞葉が支援者からわざわざ春を選び、結婚を迫った理由が判明。

戸惑いながらもハンコを押すのは、取材を終えてからという条件を春は付け、それに呼応するように、作品の上演は死んだあとだという条件を付け、契約は成立。暗転後、春の口から詞葉が起こした残酷な事件の全貌が明らかになった。

「私を殺してください」、「これは、取材が始まったと思っていいんですね」という言葉の間には、覚悟を決めるまでの若干のためらいがお互いに感じられる表情が見受けられる。

春がその契約を受け入れた後は、おそらく詞葉の等身大な思いであろう「思い出す前に死にたい」と言った表情には、かなり悲痛な表情が感じられるが、「私が私ではいられなくなる前に死にたい」という言葉の後には、やや安堵した表情を浮かべたようにも感じられた。

物語は静かに結末へ進んでいく。

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